“馬楽園的”名馬列伝 「超良血イケメン怪獣」ラニ

ラニ(LANI)

戦績:17戦3勝
勝鞍:2016UAEダービー(ダ1900m、ドバイGⅡ)
血統:父Tapit
     母ヘヴンリーロマンス
     母父サンデーサイレンス
調教師:松永幹夫
馬主:前田葉子
生産:North Hills Co

10/26付けでラニが引退した。

日本馬として初めて
UAEダービー(ドバイGⅡ)で勝利し
アメリカクラシック三冠路線完走した
記録にも記憶にも残る名馬である。

とまぁ、実績的にも輝かしいものを持っているが
近年ここまでキャラ設定が濃かったのは
この馬以外ではいないんではないかというぐらい
濃いエピソードを残しまくったラニ。

近年の記憶に残る名馬たちと違うのは
その伝説やキャラ設定が日本だけではなく
海を超えて中東米国本土でも語り継がれ
多くのファンを獲得したことからも伺える。

今回の”馬楽園的”名馬列伝は
「超良血イケメン怪獣」
ラニにスポットを当ててみよう。

ヾ(*´Q`*)ノ イヤァーーン
イケメンっ!

関連記事(2019.4.22追記)
新種牡馬ラニの子どもたちが誕生!初年度産駒の将来の活躍に大いに期待しよう!【馬楽園的コラム】

目次

お母さんは伝説の天皇賞馬

ラニを語る前に、
この馬のお母さんから語らねばなるまい。

お母さんは、
2005年の天皇賞/秋の勝ち馬
ヘヴンリーロマンスである。

天皇賞はもともと
天皇陛下から賞品を下賜されるレースとして
1905年に初めておこなわれた
「帝室御賞典」を起源としている。

それから100年後の2005年、第132回天皇賞は、
「エンペラーズカップ100年記念」
の副題とともに、
日本中央競馬史上初の天覧競馬
として、行われることとなる。

天皇・皇后両陛下をお招きしての
歴史的な第132回天皇賞/秋を
14番人気ながら突き抜けたのが
ヘヴンリーロマンスである。

馬名の意味は「天上の愛」
まさに天覧競馬に相応しい名前。

データ馬券派は
狂喜乱舞したものである。

その天皇賞の歴史的な名場面がこちら。

お見事!の一言に尽きる。

この馬上礼は天皇賞の歴史を語るうえで
忘れることのできない名場面となったのである。

そしてその馬上にいたのが
松永幹夫(現調教師)である。

調教師は「競馬の神に祝福された男」

「ミッキースマイルが馬場に映えるか」
(1991年天皇賞/春の実況より)

杉本清氏(元関西テレビアナウンサー)が表現した
「元祖・イケメンジョッキー」

あの武豊やオグリキャップが登場し
空前の競馬ブームを作り上げた
80年後半から90年にかけて

「女性ファンが競馬場に訪れる
きっかけを作った男」
それが松永幹夫である。

イソノルーブル(オークス)
ファビラスラフィン(秋華賞)
チアズグレイス(桜花賞)など

騎乗した馬は牝馬の活躍馬が多く
「牝馬のミッキー」という異名をとった。

とにかく当時を知る我々は
「武豊以上に絵になる騎手」
というイメージがある。

松永幹夫引退式の当日
メインレースの阪急杯を
11番人気ブルーショットガンで制し、

続く最終12Rも勝利して
節目のJRA通算1400勝
引退レースで達成。

またまた場内実況のアナウンサーに
「最後もカッコよく決めてくれました(^^♪」
と言わしめた男。

「競馬の神様に愛されすぎぃ!」
な感すらある有終の美も
ミッキーならあり得ると誰もが思った
「元祖・アイドルジョッキー」

松永幹夫は騎手を引退した後も
調教師として、ヘヴンリーロマンスの
子供たちを管理することになったのである。

お父さんは北米リーディングサイアー

父のTapit(タピット)
2004年のウッドメモリアルステークスの勝ち馬。

度重なる怪我や感染症で
大レースは1つ勝ったのみだったが
そのポテンシャルは高く
「無事ならアメリ三冠も狙えた」
と言われた実力馬だった。

引退後はアメリカで種牡馬入りし、いきなり
北米リーディングファーストクロップサイアー
および
北米リーディング2歳サイアー
に輝く。

2014年には2007年のSmart Strikeが樹立した
産駒による北米年間最多収得賞金を更新
自身初の北米リーディングサイアーとなった。

いわゆる現在の
北米を代表する大種牡馬である。

そしてラニ伝説

北米リーディングサイアー
×
伝説の天皇賞馬

競馬の神に祝福された男(が調教師)

という
凄まじい血統背景恵まれすぎた環境
で生まれ育ったラニ。

そしてその血統背景に違わぬ
レースっぷりを見せる。

ドバイで行われた
2016年のUAEダービー(GⅡダート1900m)
を、日本馬として初勝利!

勇躍、ケンタッキーダービーをはじめとした
アメリカクラシック三冠路線
駒を進めるのである。

アメリカクラシック三冠を全走破!

アメリカクラシック三冠路線は

ケンタッキーダービー(ダ2000m)

プリークネスS(ダ1900m)

ベルモントS(ダ2400m)

の3戦を僅か1ヶ月たらずの
期間に走るという超ハードな日程。

今まで三冠レース全てに挑戦した
日本馬は皆無。

日本馬にとっては未知の挑戦ではあるが
前哨戦であるUAEダービーを勝って臨む
ラニには大きな期待がかけられていた。

…とここまでは至極、順風満帆な
流れで来ているように見えるが
この以前からすでに、
超良血馬らしくない狂気性
押し出し始めていたのである…。

伝説1…馬っ気、吠える、噛みつく、蹴っ飛ばす

オーナーは前田幸治

ノースヒルズマネジメントの
総帥であり、日本有数の
オーナーブリーダーである。

母のヘヴンリーロマンスもオーナーの所有馬。
そんな思い入れのある名馬に
北米リーディングサイアーを交配し
出来た仔に期待をかけない訳がない。

ラニの初調教の報告を楽しみにしていた
前田幸治オーナーへの松永幹夫調教師からの報告は

「マジで競走馬になれるか、分かりません(真顔)」

とにかく
・他馬に吠える、噛みつく、蹴っ飛ばす
(※ちなみに兄貴のアウォーディーにも噛みつこうとした)
・デビュー戦で馬っ気全開
・調教で全く真面目に走らない
・連闘の長距離輸送でなぜかプラス体重

などエピソード多数。

当然、栗東界隈でも
「やばい奴が来た」と噂になってくるが…

伝説2…ドバイにて/破壊王子からクレイジーホースへ

UAEダービー出走に向け
遠征したドバイでの様子。

コース入り初日の帰りの馬道で
前を行く外国馬に反応して
馬っ気を出し尻っ跳ね


その際に右トモがラチを跨いでしまい
全く動けなくなり、周囲が青ざめるも
歩き出す時に自らラチを破壊し脱出

ラチが柔らかい素材で無傷だったが
翌日からメイダン(競馬場)で
クレイジーホースと有名になる。

UAEダービーでも、残り800mから
鞍上の武豊騎手は追い通し。

「1日分の体力を全て使いきった」
と言わしめたズブさを跳ねのけて
海外重賞を勝利した!

伝説3…アメリカにて/クレイジーホース⇒現地人に呆れられる

担当厩務員さんのTwitterより

厩舎地区から競馬場エリアへ馬運車で移動してラニを降ろす際
ちょうど隣の馬運車からアメリカ馬が降りるタイミングだった。
「先に行かせてくれないか?」
「ヤダね!エキサイトしてるんだ」
「ラニだぞ」
「…お先にどうぞ」会釈しながら…。

この時点で既にアメリカでも
知られた存在だったようで…

30日の調教の帰り道。
他の厩舎地区で引き運動をしている馬がいました。
金網を挟んでお互い吠え合っていました。
いくら促しても進もうとしないラニ。
あちらの厩務員さんも引き下がりません。
するとあちらの馬が後退りし始めます。
それを見てからラニも歩き出しました。
2冠馬に失礼な事を…

注:この2冠馬とは
2014年のアメリカクラシック2冠馬
この年のドバイワールドカップも圧勝している
カリフォルニアクロームである。

「カリフォルニアクロームにも勝った馬」
としてアメリカでもクレイジーホース認定される。

そして今度は調教でも手を抜きまくる。

現地での調教(5ハロン)で、
ペースを上げることなく
最初の4ハロンを52.8秒で通過。
そして、そのまま最後の1ハロンでも
特にスパートをかけることもなく
「とんでもなく遅い」と評される
1:06.0という調教時計を記録する。
(※同日に7歳の下級条件馬2頭でさえ、
5ハロンを1:03.4で走破している。)

これを見たチャーチルダウンズの調教評価担当者が
これが日本式の調教なのでしょう。
我々にとってはスピードが全てですが、
これが彼らのやり方なのかもしれません(←違います)
と語る。

そして1週間後の追い切りも
終始グダグダで、鞍上の武豊騎手にも
酷いと言われる有様。

アメリカの競馬評論家に
「この馬がアメリカの馬であれば
おそらくセン馬として走っていることでしょう
と言われる。

このあたりからアメリカはおろか
世界の競馬関係者から
「ラニ?あれはまさにクレイジ一ホースだぜ!」
というイメージを持たれ始める。

そしてアメリカで描かれたラニのイメージがこれ。

アメリカ人はこういう
分かりやすいキャラ設定が
大好物のようで…。

さすがにアメリカクラシック3冠ロードは
厳しい結果に終わったが、
距離的にベストと思われた
3戦目のプリークネスS(ベルモントパーク/ダ2400m)
では、猛然と追い込んであわやの3着。

現地の実況アナウンサーが
「LANI!」
と叫ぶほどの豪脚で
エキサイティングなレースを見せてくれた。

伝説4/そして本当の伝説へ…

アメリカクラシック三冠路線が終了し
日本に帰国。ここからが苦難の連続だった。

帰国初戦のオープン特別(ダ2100m)こそ
4か月の休み明けを3着でまとめ
「さすが!!」と言わしめたものの
そこから7戦連続で着外。

とにかく(真面目に走らないから)
長距離戦のスタート直後の
ゆったりとしたペースにも
全くついていけない始末。

加齢とともに馬はズブくなると言われているが
いくらなんでもズブすぎぃ!というぐらい
スタート直後から騎手の手綱が動く動く。
(特に引退レースとなった2017年のブラジルカップ)

陣営もスタートからペースについていけないため
「もっと長い距離を!!」ということで
目黒記念(GⅡ芝2500m)などの芝レースへの
挑戦もしてみたが結果が伴わず。

ラニにとって不運だったのは
得意と思われる、ダートの長距離戦
日本の番組表に非常に少なかったことである。

ウイニングポストでも
ダート適正の長距離馬って
出せるレースがほとんど無くて
一番困るんだよなぁ。

距離的な面でいうと
ダイオライト記念(交流GⅡ船橋ダ2500m)
名古屋グランプリ(交流GⅡ名古屋ダ2500m)
ぐらいしかダートの長距離戦が存在しない。
(※小回りの競馬場がラニに向くかという問題もあるが。)

もし、1975年まで実在していた
日本最長距離ステークス(芝4000m)
漫画「優駿の門」に出てきた
日本大賞典(交流GⅠ南関東ダ3000m)
のようなレースが、今の日本競馬に存在していれば
おそらく勝ったのではないだろうか。

個人的には
アメリカのダートレースでも実績があったので
ブリダーズカップ・マラソン
(マラソンステークス/ダ2816m)
あたりに挑戦して欲しかった。

しかし、レースで結果が出ていようがそうでなかろうが
ラニのその狂気性は全く色褪せることなく…

ある日の調教中の出来事。

出典:keiba-news

放馬したカラ馬がコースを逆走し、
あろうことかラニに喧嘩をふっかけてきたのだ。

最初は相手にしなかったラニだが、
あまりのしつこさにとうとうブチ切れた!(((゜Д゜;)))

出典:keiba-news

見よ!!

涼しい顔をして密かに繰り出している

この華麗なローリングソバットを!!

(※下段でよろつくカラ馬の姿が、その威力を物語っているではないか!)

ちなみにラニが3発ほど蹴りを喰わらせたところで
厩舎スタッフが仲裁に入って喧嘩は終息したそうだが
一歩間違えると、とんでもないことになっていてもおかしくない。
(※ちなみにラニに喧嘩を売った、チンピラのカラ馬も
実は天皇賞馬ヒルノダムールの弟という結構な良血馬)

ちなみにラニの調教助手である丸内さんのツイートがこちら。

いやはや、どうもお疲れ様ですm(_ _ )m

結局、2017年10月22日のブラジルカップ(5着)を最後に
アロースタッドでの種牡馬入りが決まったラニ。

ともかく、松永幹夫厩舎のスタッフの方々の
これまでの頑張りに拍手を送りたい。

海外レース、特にハードスケジュールの
アメリカクラシック三冠路線を共に駆け抜け
さらに日本に帰国後、結果のなかなか伴わい時期の
陣営の皆様の気苦労は絶えなかったのではなかろうか。

種牡馬になっても「ラニ伝説」を期待してます!

こういった苦労の末、
晴れて種牡馬入りが決まったラニ。

これほどまで分かりやすいキャラ設定は
金髪不良三冠馬オルフェーヴル以来
ではないだろうか。

人々の記憶の中で
超良血イケメン怪獣
ラニは永遠に走り続ける。

いつか、ラニを父に持つ馬が
日本のターフで暴れまわる瞬間が来てほしい。

タピット×サンデーサイレンスとか
アメリカの生産者が涎を垂らして
欲しがりそうな血統背景だが…。

馬産地でも人気者になることを期待して。

そしてラニは、伝説になったのである。

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